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大阪高等裁判所 平成8年(行コ)4号 判決

控訴人

京都市長

桝本賴兼

右訴訟代理人弁護士

崎間昌一郎

被控訴人

グループ市民の眼

右代表者事務局長

折田泰宏

右訴訟代理人弁護士

中村広明

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  申立て

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

第二  主張

控訴人の主張を次のとおり付加するほか、原判決の「事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

1 京都市公文書の公開に関する条例(平成三年七月一日京都市条例第一二号、以下「本件条例」という)八条七号の趣旨は、当該文書に記載されている行政運営情報の公開によって行政運営上支障となるものにつき、非公開事由としており、その支障とされる事務事業は、当該公文書の作成目的たる当該事務事業だけでなく、京都市もしくは国の行う行政事務事業全般に及ぶ。議員の出張の費用(議会費)の支出命令書(平成四年度上半期分、以下「本件公文書」という)との関係で、同号ウの「関係当事者間の信頼関係が著しく損なわれると認められるもの」を判断するに当たっては、本件公文書についての当該事務である控訴人の予算執行事務に限定されない。

2 京都市議会議長は控訴人に対して、「市会においては、情報公開について検討中であり、この段階で市長の管理する文書であっても、市会に関する情報を公開することは、市長が市会の意思決定に先行して既成事実をつくることになり不適切である」と本件公文書の公開に明確に反対意見を表明している。

3 控訴人が、右市議会の意向に反して、本件公文書を公開すると、控訴人と市議会との信頼関係を著しく損ない、市政の公正かつ円滑な運営を実現していくべき関係を破壊し、市政全般の業務の公正かつ適切な執行に支障が生ずることは必至であり、本件条例八条七号ウに該当するとして本件公文書を非公開とした本件処分は適法である。

理由

一  事実の認定

原判決第三の1ないし4の事実認定は相当であるから、これを引用する。乙一ないし三号証によると、次の事実が認められる。

1  本件条例は、京都市が保有する情報を広く市民に公開することを目的とする(前文)ものであるが、公開の対象となる公文書は、市長などの実施機関が作成又は取得した文書などに限られ、市議会が作成保管する文書は含まれていない(二条)。

2  被控訴人より本件公文書の公開請求があったので、控訴人は平成五年二月一七日京都市会議長にこれに対する意見を求めた。

京都市会議長は同月二三日控訴人に、本件「公文書の公開については支障がある。支障がある部分 市会議員の出張にかかる全情報。理由 現在、市会においては、情報公開について検討中であり、この段階で市長の管理する文書であっても、市会に関する情報を公開することは、市長が市会の意思決定に先行して既成事実をつくることになり不適切である。」との回答をした。(もっとも、この回答をするにつき議会の議決がされたとの証拠はない。)

二  公開しないことができる公文書かどうかの判断

1  前記認定事実によると、本件公文書には市議会議員の出張に関する情報が記載されているから、これは本件条例八条七号にいう「本市が行う……その他の事務事業に関する情報」と認められる。

2  控訴人は、前記一2のとおり市会議長が公開に反対していることを理由に、同号ウの「関係当事者間の信頼関係が著しく損われると認められるもの」に該当し、本件で「関係当事者」とは市長と市議会のことであると主張している。

3  しかし、本件条例が京都市が保有する情報に関するものであることなどからすると、同号ウの「関係当事者間」とは市長と市議会(又は市会議長)のように市の機関相互の間をいうのではないと解される。この点において控訴人の主張はまず失当である。

4  更に、本件公文書の公開により、市長と市議会「間の信頼関係が著しく損われる」と認めることはできない。

この文書の公開は、条例の適用によるものであって、控訴人市長の裁量によるものではなく、しかも、その文書を公開すると、議会の事務の目的が損なわれ又は公正かつ適切な執行に支障が生じると認められるときは公開されない(本件条例八条七号)のであるから、本件文書の公開により市長と市議会または市会議長との間の信頼関係が傷つけられるものではない。

議会に関する情報の記載された公文書(特に予算の支出に関するもの)を市長部局が作成保管することは、本件条例制定前から京都市において行われていたことは当裁判所に顕著であるから、市議会は本件条例の制定にあたり、本件公文書のような文書が公開の対象として請求される可能性のあることは当然に予測できたところである。市議会が本件公文書のような文書の公開を相当でないとするのであれば、そのように条例を制定、改正すべきであって、既に条例が制定施行された以上、これを制定した市議会といえどもこれに拘束されるのは当然のことである。

この条例のもとで、公文書に記載されている情報に関する機関の長が公開に反対しているという理由で、公開が許されないとするのは、相当ではない。控訴人のような主張が正当であるとすれば、その職務につき市長の指揮監督の及ばない監査委員や各種委員会に関する情報の記載された公文書を市長が保管しているときでも、それら機関が強く反対すればその公文書の公開が許されないことになる。

5  もっとも、市会議長が公開反対の理由とするところが本件条例八条の公開除外事由に該当するときは、その理由で公開しないことが許される。しかし、本件では控訴人はそのような主張はしないし、前記市会議長の回答にある「現在市会において情報公開について検討中である」ことは、八条の除外事由に該当するものではない。

本件条例八条七号ウの「関係当事者間の信頼関係が著しく損われると認められるもの」の判断に当たっては、「事務事業の目的が損われ、又は公正かつ適切な執行に支障を生じる(同号エ)」かどうかにより、同号ウへの該当の有無を判断すべきことは、控訴人主張のとおりである。本件公文書に含まれる情報は市会議員の出張に関するものであるから、公開により「議員の出張の事務」につき、その目的が損われ、又は公正かつ適切な執行に支障を生じるかどうかを判断すべきところ、そのような事情については何の主張もない。

三  結論

そうすると、本件公文書につき被控訴人の公開請求を認めなかった本件処分は違法であるから、これは取り消しを免れない。よってこれと同旨の原判決に対する本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官井関正裕 裁判官河田貢 裁判官佐藤明)

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